ムーヴ思考 ~足るを知る者は富む 老子~

老子の言葉に「足るを知る者は富む」というものがあります。これは、新しく何かを得ることで満たされるのではなく、今の状態で満足していることを意味します。老子は、人間の欲望は尽きないという前提に立ち、足るを知らない状態では、常に足りないものを追い求めるため、満たされることがなく、幸せになることができないと説きました。仙人のように思われている老子のイメージと相まって、この言葉は、お金やモノに惑わされたり、人と争ったりすることなく、自然体でいたほうが豊かな人生を送れると解釈されています。

一方、ビジネスは競争が激しく、しかも皆さんは成長途中です。そのため、「足るを知る者は富む」という言葉を、文字通りの意味で受け入れるのは難しいかもしれません。しかし、少し見方を変えると、この言葉は自分の現状を正しく把握し、次の行動につなげるきっかけになります。

足るを知るというのは、つまり自分の現状を把握するということです。例えば、向上心を持つ人は、「新しいことに挑戦してみたい」「たくさんの本を読んでみたい」と思っていますが、時間がないというのが悩みの種ではないでしょうか。

しかし、本当に時間がないのでしょうか?

皆さんが新しいことへの挑戦や読書の時間を確保するため、行動の取捨選択をしたり、時短を心掛けたりしているとしたら、皆さんはその時点で確保し得る最大の時間を使っていることになります。

つまり、今以上に多くの時間を確保するのは難しいというレベルまで努力をしているといえるでしょう。それ以上の時間を確保しようとすれば、睡眠時間を短くするなど、どこかで無理をすることになってしまいます。

ただし、今確保できる時間を最大限使っていたとしても、まだまだ足りないというのが皆さんの実感でしょう。また、複数のことを同時に進めていると、リソースや集中力が分散して、余計に時間が足りないと感じてしまうものです。

では、「足るを知った上で富む」ためにはどうしたらよいのでしょうか?

その答えは、取り組む分野を絞り込むことです。今、最大限の時間を確保しているわけですから、その時間を使って何を優先的にやるべきかを決めるのです。そうすると、集中して一つの物事を深く掘り下げることができるため、知識を得るスピードが速くなります。自身の成長を実感しやすくなるので、充実感も得られるでしょう。

 

人を知る者は智、自ら知る者は明なり。

人に勝つ者は力有り、自ら勝つ者は強し。

足るを知る者は富み、強(つと)めて行う者は志有り。

 

其の所を失わざる者は久し。死して而(しか)も亡びざる者は寿(いのちなが)し。

 

他人を理解することは普通の知恵の働きだが、自分自身を理解することは優れた知恵の働きが必要である。

力が有る者は他人に勝てるが、本当の強さが有る者は自分自身に勝つ。

満足することを知っている者は心が豊かであり、努力を続ける者はすでに志がある。

自分の本来の在り方を見失わない者は長生きをする。死んでもなお本来の自分を忘れない者が本当の長寿である。