ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみにうかぶうたかたはかつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人と栖と又かくのごとし。
流れる川の流れは絶え間ないが、しかし、その水はもとの水ではない。よどみの水面に浮かぶ泡は消えては生じて、そのままの姿で長くとどまっているというためしはない。世の中の人間と住まいも、これと同じなのだ。『方丈記』の最大の不幸は、あまりに有名な冒頭のために読んだ気になってしまい、その先が読まれていないことだといってもよいでしょう。
「ゆく河の流れは絶えずして」という冒頭のとおり、この世にあるものはすべて移ろいます。『方丈記』といえば「無常観」といわれますが、読み進めると、そこにあるのは静かな無常観ではなく、はかない世のありようを説明するための「世の不思議」、つまり平安京を襲った五つの災厄が、まるでルポルタージュのように生き生きと、迫真の描写でつづられているのに驚かされます。